Potez 633-B2 ルーマニア王国空軍

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<実機について>

 フランス空軍省が新しい複座戦闘機の仕様を告示したのは1934年10月のこと。WWIIで役立たずの烙印を押される一連の双発多座戦闘機のいわば嚆矢となったわけではあるんですが、空軍省も3ヶ月前には単座戦闘機の仕様も告示しており、複戦にそれほど過大な期待を掛けていたわけでもなさそう。当時の国防費の切り詰めもあって、一種類の機体が迎撃戦闘も直協支援も強行偵察もできるという汎用性が寧ろ魅力的だったようでもあります。考え方としてはそれほど間違っていない気もするし、少なくとも10年後にキ70で同じ夢をみて失敗している極東の某国陸軍よりはだいぶ先を行っている気もするんですが…。

 633B2はB2の略号が示す通り複座の軽爆撃型で、乗員を3名から2名に減らして操縦席と後部銃手席の間に爆弾槽を増設したこと、機首下面に観測用の小窓が設けられたことなどが戦闘機型と異なっています。また、機首下面の30mm機銃×2もなくなって、代わりに機首のやや右寄りに7.5mmMAC機銃が付けられています。実際に爆撃照準をするのは何故か後部銃手で、そのためにペリスコープ式の爆撃照準器なんてものが付いているんだとか。でもそれって

爆撃コースに乗った後は防御砲火が全く撃てなくなってしまう

んじゃないかと…。空軍もやっぱりその辺りは気になったようで、当初125機を発注したものの、「やっぱり水平爆撃機は3座がいいんじゃないかね。」などと言い出して数ヶ月後にあっさり取り消し。既に生産されていた71機も多くはルーマニア(19機)、ギリシャ(13機)、中国(4機)への輸出に回されることになります。中国へ輸出された機体はどうも国民党の手には届かず、仏領インドシナで使われたらしいんだとか。

 ルーマニアにやってきたのは総勢20機で、第2爆撃航空群の第74、75の2個中隊に配備されます。しかしソ連との戦闘が始まると前線での喪失やスペアパーツの不足などで稼動機数は急速に低下し、41年にはドイツ経由で9機が追加供与されたものの、41年末の再編成で残った機体は74中隊に統合されてしまいます。スターリングラード戦役にも参加して奮闘した(ということになっているけれど、41年戦役に比べてあまりに損失が少ないんで、実はあんまり出撃していないか、もっぱら偵察に使われていたのかもしれない)Potez 633ですが、稼働率の低下は如何ともしがたく、43年には中隊はJu87Dに改編。残っていた機体は以後夜間戦闘機部隊で訓練用に使われたんだとか。

Potez 633 B2
寸法諸元16.00×11.70×3.62m(W×L×H) 全備重量3,916kg
主機 Gnome Rone 14M4/5 (離昇770HP) 最大速度448km/h (alt. 4,000m)
初飛行1936.04.25 最大航続距離1,300km
武装7.5mm MAC機銃×2、爆装110lb×8


<キットについて>

 AzurのPotez63系キットは2004年頃にPotez 630、631、63.11が立て続けに発売になった後、暫く経った後に機体下面にゴンドラを装備した637が発売になり、2008年初頭にこのPotez633が発売になりました。基本的には631をベースとしているようで、コックピット中央に居座る爆弾槽などがレジンで付いてくる(といってもレジンの塊なので内部までは再現されていません。)他、専用のエッチングパーツで爆弾槽の扉(といっても左右一体だし、所詮その奥はレジンの固まりだしで、開状態にすることはできませんが…。)が再現されています。キャノピーも631同様のバキュームフォームで、他に機首下面の小窓もバキュームフォームで付いてきます。小窓そのものは自分で切り出さないといけませんが。

 デカールは箱絵のギリシア空軍の他、フランス空軍、ルーマニア空軍がそれぞれ一例づつ付いてきます。発色なんかは悪くないんですが、先に出たPotez 63.11のルーマニア仕様とは微妙に色調が異なっていてちょっと違和感あり。ギリシアのラウンデルの青とミハイ十字の青が完全に同じ色になっている辺り、どうもコストダウンの結果ではないかという疑いもあるんですが…。


<製 作>

  コックピット周りはレジンパーツなんですが、サイドコンソールなど全く無い割と簡素な作り。63.11にはあるサイドコンソールが無いわけはないので、プラ板積層とジャンクのエッチングなどを使って適当にでっちあげます。側壁も何もないのでエバーグリーンのプラ棒で適当な桁を組んだ後、地図入れや機銃用の弾倉などを適当につけてやります。キャノピーはバキュームフォームとは言え透明度はあまり良くないのであくまで適当に。

 例によって主翼は左右分割の上にイモ付けなので、エバーグリーンの5mm×5mmのプラ棒を差し込んで補強するようにしています。胴体側の穴をぴったり開けるような技術は無いので、胴体側に大きめの穴を開けた後に、左右胴体の貼り合わせ前にプラ棒を差し込んだ主翼を接着。胴体内側からプラ棒の周りをエポキシ系接着剤で固めています。強度的には充分なんですが、左右胴体の貼り合わせ前に主翼をつけるので、左右の上反角がずれ易いのが困るところ。兎に角正面から見てできるだけきっちり合わせながら取り付けていくしかありません。垂直安定板がイモ付けなのも微妙ではありますが、こちらは塗装後に付けたかったこともあって結局イモ付けのままになっています。まぁ取れたらまたつければ済むところではありますし…。

 機首下面の小窓はキット付属のバキュームが使いにくかったので、曲面に合わせて湯曲げしてプラ板を切り出して代用。キットでは無視されている機首の着陸灯もピンバイスで開けた穴に他キットのクリアパーツのランナーを差し込んで再現してみました。全体の組立自体はそれほど問題なく進むのですが、主翼が左右分割なために、主翼と胴体下面を面一に仕上げるのが大変。この辺りのパーツ割りはもう少し考えて欲しいところではあります。

 インストの指示だとルーマニア機はフランス空軍の3色迷彩で塗られていることになっていますが、実際にはルーマニアに来てから同国の迷彩に塗り替えられています。まぁ確かにルーマニアに来た当初はフレンチ塗装のままだった可能性はあるんですが、国籍標識がラウンデルからミハイ十字に変わるのと同国の制式迷彩が決まるのがほぼ同時期なので、インストのようなミハイ十字+フレンチ迷彩の時期はそもそもなかった可能性も大です。Azur側に何らかの資料があっての指定なのか、はたまた間違っただけなのか…。

 実はルーマニアで施された迷彩についても諸説あったりするんですが、今回は折角ブカレストから取り寄せたModelism Internationalの“Romanian Aeronautics in the Second World War”に従ってEarth Brown、Green、Dark Brownの三色迷彩にしてみました。実際に使用した色は以下の通りです。

Earth Brown:RLM79サンドイエロー(C119)50%+イエロー(C4)30%+ニュートラルグレイ(C13)20%
Green:RLM80グリーン(C120)
Dark Brown:赤褐色(C131)60%+RLM66グレイ(C116)40%


Earth Brownをやや明るめに解釈していること(そもそも元資料の色はDark Earthに近い)、緑の部分をOlive Greenと見做していること(元資料の色はやや茶色味を帯びた、RLM71に近い色)などちょっと元資料とは違う解釈にしています。マーキングはキットのデカールをそのまま使用。上で書いたように発色はちょっと微妙ではあるんですが、丈夫な割りに馴染みもよく、えらく高品質なデカールでした。


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